2021
11.30

商品撮影の被写界深度と回析現象を考える。

商品撮影講座

被写界深度について
少し専門的なことをお話しいたします。

さまざまな写真を見たときに手前の人物に焦点が合っていてはっきり写っているのに後ろの風景がボケていたり 反対に人物も後ろの風景もはっきり焦点が合っている写真ってありますよね。
 
これはレンズの絞りというものを動かすことによってピントが手前だけに合ったり全体に合わせることができる仕組みがついているのです。

数字で表記されていてデジイチだと2.8から22くらいまであり数値が小さい方がピントが浅く(後ろがボケやすい)て数値が大きくなることにピントの合う範囲が深くなります。

その焦点の合っている範囲をブログの題名になっている被写界深度(ヒシャカイシンド)と言います。

実際には手前から徐々に焦点が合って徐々にボケていくので大体の範囲になりますけど。

知ってる人もいると思うけどそもそも絞りって何よって話になるので説明しますとレンズの中にある光の量を調節する羽とでも言えばいいかな ためしにカメラのレンズを覗いて絞りを11〜22くらいまで絞ってシャッターを切ると黒い多角形の羽が一瞬見える それが絞りです。

上の写真の五角形が絞りです。
レンズのメーカーによって羽の数が変わり形が違います。ちなみにハッセルブラッドのカールツアイスレンズは5角形です。

撮影実例


前置きが長くなってしまいました。

商品撮影の場合全体に焦点が合っていないといけないことが多く奥行きのある商品でも工夫をして全体に焦点を合わせます。
下記の作例を見てください。ハサミを斜めに置きました。
奥行きが大体20cmくらいです。

商品の置いてある位置が近いのとカメラが大型カメラでデジタルパックのPhaseoneを使っているので極端に焦点が浅いです。
アオリという特殊なピントを操作できる機能がついています。(これは別でお話しいたします。)
テストするには分かりやすくて良いでしょう。

解説しましょう。写真の左上にレンズの名前とその下にその撮影で使った絞りを表示しました。
ピントはハサミのネジに合わせています。

開放で撮影

作例A-1 F5.6 このレンズの開放値です。
被写界深度(ピントの合っている幅)が3cmくらいしかありません。
刃先もハンドルもボケています。4×5のレンズで開放で撮影することはほとんどありません。

なぜならレンズのはじっこを通る光はボケやすくて綺麗な光ではないのです。

ですので通常はその部分を絞りで切って(絞って)撮影します。

今回はレンズの絞ることによる変化を見るためのテストですので開放で撮影してみました。
全体の写真の下にネジ部分のアップを載せています。

焦点に関してはネジの手前 画面の中心に合わせてあります。
焦点の浅さも良く分かります。よく見るとブランド名のOXくらいまでしか合っていません2cmくらいですね。

ひとつ勘違いしないで欲しいのは焦点は画面に対して水平に縦の平面で合っっていきます。

あたりまえですけどハサミの向きに対して斜めに合うわけではありません。

赤いハンドルとハサミの接合部分の焦点とネジの焦点は同じ焦点位置になります。(アップ画像参照)

画像をクリックしてくださいアップのネジ部分を見るとなんとなくボケていますね。これは先ほどお話しした開放で撮影しているためでレンズのはじっこを通る光(レンズの収差)が悪さしているのです。

作例A-2 F8  作例A-3 F11 を見てください。

どちらも作例A-1F5.6で見られたモヤモヤが解消されネジも全体にピントが合いました。

作例A-2 F8はブランド名のINまで 
作例A-3 F11はかなりシャープになりピント位置もTOまで 
後ろは右ハンドルの手前くらいまで合いました。

作例A-4 F16 作例A-5 F22までいくとアップした部分だけ見るとほぼ全てにピントは合っています。
ステンレススチールの縦ラインも綺麗に表現できています。

ただ全体を見ると刃先とハンドルの上部はピントが合っていません。
結構絞っていますけどそこまではピントが来ないようです。

作例A-6 F32の全体を見てみましょう。
若干ハンドル上部が甘い気がしますが刃先までピントが合いました。

アップ画像

アップはいかがでしょうか。


ここでもう一つの問題点です。先ほど開放だとレンズの端から綺麗でない光が入ってきて画像を乱し 絞りを一段絞るとその光を遮断して画像がシャープになるお話をしました。

回析現象

しかしその絞りを今度は絞りすぎるとこれも絞りの周りを通った光が拡散されて画像を乱し解像度を下げる原因になるのです。

このことを回析現象と言います。

作例Bは作例Aの中心部分だけわかりやすいようにトリミングしてアップにしました。


アップの画像の作例B-1 F5.6から順番にみてください。

作例B-4 f16までは焦点が浅いのを別にしてピントのきているところはシャープですが ネジの部分をよく見るとF22からなんとなく解像度(モヤッとしている)が落ちていますね。

作例B-6 F32に至ってはかなりシャープネスが損なわれています。

全体にピントを合わせて撮影する場合はできるだけ絞らないとピントは前から後ろまで来ません。

しかし絞りを小さくしていくと逆に回析現象で全体に画像を悪化させてシャープネスを低下させる原因になってしまうのです。

困った問題で撮影時に悩むところです。

考え方次第ですが 回析現象とは作例でお見せしたくらいのシャープネスの低下ですのでネット通販のウエッブサイトなどに載せるくらいでしたら絞り優先の撮影で回析現象は無視しても構わないでしょう。

しかし大きく扱う場合は留意する必要がありそうです。
最終的には撮影者カメラマンの判断になりそうです。

ビューカメラによるアオリ撮影について

(回析現象に左右されない前から後ろまでピントを合わせる方法)
この問題を解決する方法が一つだけあります。絞らなくてもピントを合わせる方法です。

通常のカメラはレンズに対してフィルム面(今はデジカメですのでセンサー面)は並列になっています。

そのためピントが合う面も当然平行で被写界深度の説明のところでお話しした通り縦に奥に向かってピントが合っていきます。

そのために斜めに置いた商品にはピントに限度ができてしまい被写界深度を外れた前後にピントが来ません。

そこでこの並行のレンズとセンサー面を商品の角度に合わせて斜めにしたらどうでしょうか。

下のイラストをみてください。A が斜めに置いてある商品です。

真ん中のLがレンズでカメラ F1 がレンズに対して並行になっているセンサー面 このセンサー面の距離が商品の手前と奥では斜めなために 焦点の合う距離が違うので当然ピントは合いません。

そこでこの距離を合わせたらいかがでしょうセンサー面を F2 の位置に移動するのです。

すると商品の上と下での距離は一緒ですので絞りを絞らなくてもピントが合います。
これがアオリ撮影の原理でシャインプルーフの原理と言われています。

シャインプルーフの原理
被写体 レンズ面 センサー面 その3つの面の延長が交わる時にのみ画面全体に焦点が合います。


このイラストの原理はビューカメラ(4×5カメラ)と呼ばれる蛇腹のついたカメラで実現することができます。(一部の35mmのカメラのレンズにもできるものがあります。)

上がビューカメラです。左の写真がイラストで言うピント面が F1の位置 右が F2 のピント位置です。こうすることによって3つの平面の延長が交わるようにして焦点を合わせます。

そのようにして撮影したハサミが下記の画像です。

絞りはF16で撮影しています。全体に焦点がきています。全体にシャープネスも保たれています。ハサミを支えている仕掛けは画像処理で消去しました。


等倍で切り出したアップです。


この技法はフィルム時代の商品撮影のカメラマンであれば誰でもが使っていた技術と機材です。

デジタル時代になり画像処理でピントの合っている部分を分割して撮影して合成するなんてこともできる時代ですから必要ないのかもしれませんが、知っていれば撮影の幅が広がるのではないでしょうか。
柳井一隆

sinarC PHASE ONE IQ380 Fujinon W210 F5.6